アパート、賃貸マンションの相続
総論
相続財産中にアパート、賃貸マンション等がある場合、相続手続きに通常と違う要素が多数入ってきます。
アパート、賃貸マンションを相続財産としてどのように評価するかの問題、賃貸事業を引き継ぐかの問題、相続税やローンの問題…などです。事業を引き継ぐ場合はここからさらにいろいろなことが必要になります。
今回はアパート、賃貸マンションを相続した時の手続きや注意すべきポイントについて説明していきます。
まずは相続財産の調査が重要
後述しますが、相続手続きの順番としては遺言書の有無の確認や相続人の確認が先になるのですが、アパート、賃貸マンションが相続財産である場合は相続財産の調査が特に重要になります。
相続して賃貸事業をするかはもちろんですが、遺産分割をどのように行うか(財産の分け方の問題)、相続税がかかる場合はどのように支払うかの問題にも関係しますし、そもそもローンなどの方がかなり多く、収益性が低い場合は相続放棄も視野に入ってきます。
相続財産の調査を詳細に行った上で手続きを進めていくことが重要です。
アパート、賃貸マンションの評価は
アパート、賃貸マンションの相続税評価は基本的には他の不動産と同じく路線価や倍率方式によって計算しますが、賃貸物件特有の評価要素があります。
また、実際にどのような形で遺産を分けるかの遺産分割協議においては収益性(利回り)の評価が重要になります。
負債の額が上回っている場合は
まだ多額のローンの返済が残っているにもかかわらず、すでに老朽化が進んでいたり、周囲の環境から今後の収益性があまり望めない、あるいは修繕等に多額の費用が必要になるなどの場合、上記の通り他の相続財産と総合的に考慮を行い、相続放棄もやむなし、ということも考えられます。
アパート、賃貸マンションの相続手続き
遺言書の有無の確認から
相続手続きにおいてまず最初に行うことは遺言書が存在するかの確認です。これはアパート、賃貸マンションが相続財産中に存在する場合であっても変わりません。
遺言書の有無によってその後の手続きが大きく変化しますし、遺言書が遺産分割後に見つかると、面倒なことになりかねません。アパート、賃貸マンションがある場合はなおさらです。
遺言書の確認は公正証書遺言であればどこの公証役場でも調べることが可能ですし、自筆証書遺言であれば配偶者や身近な方に託している場合が多いと思われますのでそういった方に確認するようにしましょう。
遺言書の有無を確認したら戸籍謄本等を集めて相続人を確認し、上記のように詳細に相続財産の調査を行ってから相続を放棄するかどうかを検討したり、遺産分割協議の準備をしたりします。
遺産分割上の問題
遺産分割協議を行う上で、上記相続財産調査や不動産の評価と関連することですが、通常の不動産の相続と違い、賃貸不動産の評価は難しいところがあります。
まず、相続税の申告が必要な場合の相続税評価と遺産分割上の評価は別のものになります。
相続税評価はいろいろな要因がありますが、基本的には土地は路線価で、建物は固定資産税評価で計算します。
一方遺産分割上の評価は想定利回り等の問題もあり、なかなか難しい部分があるのですが、相続人が複数いた場合はそれぞれの分割額に関わる問題なので評価について相続人間で意見が一致せず、遺産分割にあたって不動産鑑定士の鑑定を必要とするようなケースもなくはありません。
また、遺産分割方法は相続税の支払いがある場合はその支払い方法の確保とも関連するため相続人が複数いる場合はかなり分割を慎重に行う必要があります。
登記を申請し、必要なら相続税の申告
遺産分割協議が終了し、相続する相続人が決定したら登記名義の変更を行います。
登記手続きには固定資産税評価額の0.4%登録免許税が必要となりますが、不動産の評価額が高い場合はそれなりの金額が必要となりますので準備しておく必要があります。
相続登記が終了したらひと段落、と言ったところですが相続税の申告が必要な場合は相続税の申告及び納税の準備を進めていかなければなりません。
相続税の手続きは相続が発生してから10ヶ月以内に行うことが原則となっています。相続したアパート、賃貸マンションについても相続税の支払いに当てるために売却を検討する必要がある場合も考えられますが、逆に税額が大きくなる可能性もあるので慎重な対応が必要です。
小規模宅地等の特例は利用可能なのか
アパート、賃貸マンションの宅地部分については「小規模宅地等の特例」の貸付事業用宅地等に該当するとされていますので「不動産貸付事業のために使用している宅地」については200㎡まで50%、評価減することができます。
アパート、賃貸マンションだけでなく、駐車場や駐輪場なども貸付事業用宅地等に該当するとされています。
なお、「小規模宅地等の特例」を始め、相続税については税理士にお尋ねください。
相続開始の直前に賃貸に供することで相続税を逃れようとすることを防ぐねらいと言われています。
アパート、賃貸マンションの相続で必要になること
賃料をどうするか
賃料の問題として、賃貸物件には相続開始からの賃料収入をどのように扱うかの問題があります。
(相続開始までの賃料収入は相続財産です)
遺産分割内容が決定するまでは、基本的には法定相続分に従って賃料を分けることになりますが、賃料がどの口座に入るようにするのかなど(被相続人の口座は使用できなくなっているため)、相続人間で微妙に対立が生じる可能性があります。
使用する口座や賃借人とのやり取りや当面の賃貸人としての義務をどのように果たしていくかが決まったら、きちんと賃借人に連絡しておきましょう。
賃貸経営継続についての判断
「ローンなどがかなり残っているのに収益性が悪い場合は相続放棄も」ということは先述しましたが、相続財産としてはプラスと判断して相続手続き自体が終了した後も、そのまま賃貸経営を継続するかの判断を行う必要があります。
立地、入居率、これから必要になる修繕費等から総合的に判断し、経営を継続して自分で管理する、経営を継続するが管理は管理会社に依頼する、あるいは売却するなど相続後も判断すべきことはあります。
準確定申告の必要性
被相続人の賃貸事業の収入について申告を行う必要があります(相続税の申告ではありません)。
被相続人が亡くなったことによる事業年度の途中での申告を準確定申告といいますが、この準確定申告は被相続人が亡くなってから4ヶ月以内に行う必要があります。
コメント