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改正相続法の解説 新遺産分割制度に関して

平成30年7月13日改正相続法公布

平成30年7月13日、改正相続法が公布されました。前回に引き続き、改正相続法について解説します。
改正について詳しくはこちらをご覧ください。

改正までの遺産分割は以下のページの通りでした。

遺産分割|京都の相続・遺言
相続の基礎知識とその手続きについて解説しています。その中の「遺産分割」です。遺産相続手続きや公正証書遺言書作成なら京都の相続・遺言にご相談ください。

今回の遺産分割に関する改正は、条文に記載されていないものの判例などを通じて実務で行われていることを条文化したものが中心ですが、仮払い制度の創設などもあります。

それでは今回の改正でいままでの遺産分割がどう変わるのか見ていきましょう。

実務が明文化されたもの

まずはいままで条文はないけれど、判例を基に実務では行われていたもの等を説明します。

遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲について

改正法906条の2 第1項 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合でもあっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

この条文は判例(最判昭54.2.22など)によって示され、実務でも定着していたものです。

どういう内容かというと、例えば相続財産が2000万円相当で、共同相続人が二人、なおかつ相続分は1:1だったとします。この場合当然一人あたりの相続額は通常は1000万円ずつとなるはずです。

ところが相続財産は遺産分割前に処分することが可能です。もし共同相続人の一人が1000万円分の相続財産を処分し、その払い戻しを受けていた場合どうなるかというと、改正前のままだと、遺産分割は残りの1000万円を二人で分割することになり、実質的に遺産分割前に勝手に相続財産を処分して払い戻しを受けた共同相続人の一人が得をする(この場合だと、1500万円を得る)ことになっていました。

これはまずいということで、前掲の判例などによって修正され、実務でも定着していたのが今回のこの条文の内容です。

この条文によって、遺産に属する財産を処分した相続人以外の共同相続人全員の同意があれば、遺産の分割前に当該財産を遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができることになりました。

この条文の成立によって共同相続人間の公平性が保たれることが期待されますが、同時に遺産分割協議自体の長期化を懸念する声もあるようです。

遺産の一部分割

改正法907条 第1項 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

遺産分割はなるべく早く相続財産の全容を把握し、1回の協議で終わらせるのが理想といえます。しかし場合によっては遺産の全部分割を行うことに支障がある場合や、全部ではなくまず争いのない遺産について先行して一部分割を行ったほうが遺産分割全体がスムーズにいく場合があるため、改正前の条文にない遺産の一部分割をする必要性があったのです。

その一方で、改正前の条文も一部分割を認める記載はないものの、否定しているようにも見えないことから、実務上一部分割の合理性や必要性が肯定される等の事情があれば一部分割を許容していていました。

今回の改正で明文化されたことで遺産の一部のみの分割を求める調停・審判も申し立てることができるようになるとされています。

配偶者保護のために設けられたもの

今回の相続法改正全体のテーマが「配偶者の保護」です。
高齢化を受けて子よりも高齢化した配偶者のほうがより保護の要請が高いとの判断です。それでは遺産分割に関する配偶者保護のための改正を見てみましょう。

持戻し免除の意思表示の推定

改正法903条 第4項 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

持戻し免除」というと何やら難しいように思えますが、要は被相続人の生前に贈与等、または遺言書で遺贈を受けていた相続人がいたらその分は不公平になるといけないので相続分から引きますよ、というのが「持戻し」で、持戻し免除というのは引くのを免除する、つまり他の相続人よりも贈与や遺贈の分多めにあげるということです。

持戻し免除は遺言で行う必要があるのですが、婚姻期間が20年以上の夫婦間で住んでいる建物またはその敷地を遺贈または贈与をした場合は遺言書がなくても持戻し免除の意思表示をしたと考えます、ということです。

これによってどうなるかというと、例えば贈与でも遺贈でも、あるいは普通に遺産分割した場合であっても不動産というのはたいていの場合相続財産の中で最も価値のあるものです。

その不動産を受け取ったとなると、相続分の計算上、ほとんどの場合それ以上相続財産を受け取ることはできません。
しかし例え住む場所が確保されていたとしても、ある程度の金銭的な資産がなければ生活が困窮する可能性があります。

そこで配偶者保護の観点から、婚姻期間が20年以上という縛りをかけたうえで不動産のほかにも残された配偶者が相続財産を受け取れるようにした、というわけです。

相続時の便宜のために設けられたもの

今回の相続法改正では従来不便だとされていたことがかなり改善されます。
改正前までは被相続人が亡くなってからは原則として遺産分割協議が調わないと、預貯金等の引出しができず、葬儀代などある程度まとまったお金が必要な時に困った事態になることがありました。今回の改正ではそのあたりが改善されています。

仮払い制度等の創設

改正法909条の2 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、その相続開始の時の債権額の3分の1に当該共同相続人の法定相続分を乗じた額については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

被相続人の相続財産は、亡くなった時点で相続人全員によって共有している状態となる、とされています。そのため、原則として銀行などの金融機関は被相続人死亡の連絡があると口座を凍結し、遺産分割協議の前に被相続人の預金口座の払戻や名義変更に応じなくなるため、預金を引き出すことができずに葬儀代などの支払いに困る事態などがありました。

しかしその一方で、一部の相続人が勝手に預金を引き出せると不公平な事態にもなりかねません。

そこで問題ないと思われる範囲(預貯金債権×1/3×法定相続分)については各相続人が単独で権利行使することができることになったのです。
行使の上限額は金融機関ごとに150万円を限度とする方向でパブリックコメントが出ているようですので、その金額が目安になると思われます。

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